株式アナリストの鈴木一之です。2022年6月の「HOTな銘柄、COOLな銘柄」をお届けします。

全体相場の振り返り

6月相場は世界的に軟調な動きが一段と強まりました。
6月半ばのFOMCにおいて、FRBは今年3度目の利上げを実施し、そこからインフレの抑制か、景気の失速かという二者択一で世界中が右往左往しています。

米国ではNYダウ工業株が6月の月間騰落率が▲6.71%という記録的な下落となりました。
テクノロジー株で構成されるNASDAQは▲8.40%とさらに一段と下げ幅が拡大するという厳しい展開となりました。

東京市場の月間パフォーマンスも一向にさえず、日経平均は5月末の27,279円から6月末の26,393円まで、1か月で▲3.25%もの反落を余儀なくされました。
TOPIXも5月末の1,912から6月末には▲2.20%と大きく反落しました。

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金利の上昇によって小型成長株は引き続き厳しい状況に置かれています。
東証マザーズ指数は4月の▲12.2%、5月の▲3.3%に続いて、6月も▲1.49%と続落しました。
ただしのちほど触れますが、徐々に小型成長株には底入れ反転の機運も高まっており、下げ幅は直近3か月間では最も小さくなっています。

米FOMCで0.75%の利上げ決定。リセッション懸念台頭

5月に続いて6月相場でも、世界の関心事は米国の金融政策に集中しました。
6月14日~15日に開催された米FOMCで、今年3度目の利上げとなるFFレートの0.75%引き上げが決定されました。
引き上げ幅は1994年11月以来、実に27年7か月ぶりのことです。

6月第3週は「中央銀行ウィーク」と呼ばれるほど、イングランド銀行、スイス中央銀行をはじめ各国の中央銀行が政策金利の引き上げを決定した週となりました。
それに伴って株式市場は激しい動きを示しました。

政策金利の大幅な引き上げが行われると、今度は急ピッチの利上げが実施されることで景気は腰折れしないか、という疑問が浮上しました。
6月後半の債券および株式市場では、ほぼ一貫して米国景気のリセッション入りが懸念される展開が続きました。
米国の10年国債金利は6月14日の3.47%から6月末には3%割れまで低下しています。

インフレ抑制のために景気のスローダウンは避けられないと市場は見ており、景気敏感の半導体、電子部品株は軟調な動きを余儀なくされました。
その分、今年に入って一貫して下落していた小型成長株に買い物が向かうようになりました。

「HOTな銘柄」

6月相場で上昇の目立った銘柄、「HOTな銘柄」をご紹介します。

6月相場は基本的に下げ基調の地合いだったため、個別の銘柄が幅広く物色される展開となりました。
全体としてテーマ銘柄を幅広くまとめて押し上げるには力不足だったように見えます。
基本的に4月、5月相場と同じように、しっかり業績の伴っている銘柄、あるいは業績回復が期待できる銘柄に物色は集中しています。

  • ・ 個別材料株(EV関連、電力不足関連、経済再開期待)
  • ・ 小型成長株

(1)個別材料株(EV関連、電力不足関連、経済再開期待)

個別で高値に駆け上がる銘柄が数多く出現しました。
中でもダブル・スコープ(6619、第1位、1,125円→2,271円、+101.9%)は6月相場を通じて最も値上がり率の大きな銘柄となりました。
わずか1か月で株価は2倍以上に駆け上がりました。

ダブル・スコープはリチウムイオン電池のセパレーターを製造する専業メーカーです。セパレーターはリチウムイオン電池の正極材と負極材料を隔てる基幹部品です。
本社は東京ですが、製造拠点はすべて韓国にあります。

最初に動意づいたのは、5月12日に発表した2022年12月期の第1四半期の決算発表です。
この時に第1四半期の売上高が88.9億円と、前年比+46.2%の大幅な伸びを記録しました。
営業利益も前年比2.7倍の4.3億円に拡大しています。
米国向けに売上高が前年比7倍以上に急増したことがその理由です。
この好決算をきっかけとして、株式市場におけるダブル・スコープの位置づけは大きく変わりました。

電力株も堅調な値動きとなりました。
きっかけは6月後半に日本全国を襲った記録的な猛暑です。
関東地方では梅雨明けが観測史上最も早い6月27日に訪れ、連日のように気温が35度を超える猛暑日となりました。

今年の夏は猛暑が予想されていたため、夏本番に備えて電力各社は火力発電所の早めに点検・補修の期間に入っていました。
それが影響して東京電力管内では、電力需給がひっ迫するという事態に直面したのです。

電力の予備率が5%を切ったために、経済産業省は東電管内に「電力需給逼迫注意報」を発令する事態となりました。
予備率が3%を切ると「注意報」は「警報」に変わり、さらに強力な節電要請が発せられることになります。

電力の供給能力を増やすことは簡単ではありません。10年単位の時間がかかります。
需給ひっ迫を解消する切り札として、停止中の原子力発電を再稼働させるという手があります。
しかし福島第一原発事故からこの方、国民の間でも賛否両論が分かれています。

世界最大の規模を誇る柏崎刈羽原発を有する東京電力HD(9501、第35位、481円→567円、+17.9%)が6月後半にかけて人気化する動きが見られました。
他の電力会社も総じて堅調な動きとなっています。

電力不足に関連して、自社開発の家庭用蓄電池に力を入れているダイヤモンドHD(6699、第5位、1,131円→1,614円、+42.7%)、太陽光・風力発電を手がける新電力会社のレノバ(9519、第13位、1,908円→2,448円、+28.3%)、洋上風力発電で実績のある五洋建設(1893、第45位、634円→732円、+15.5%)などが動意づきました。

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個別材料株として「経済再開期待銘柄」もさまざまな角度から物色されました。日本でも6月10日より「パッケージツアーに限定」「マスク着用」「医療保険への加入」など多くの条件付きながら、1日2万人を上限に海外からの観光客の方の受け入れを開始しました。2年ぶりのことです。

ホテルの藤田観光(9722、第44位、2,476円→2,859円、+15.5%)が久しぶりに大きく上昇し、旅客機のギャレー(厨房設備)で世界トップクラスのジャムコ(7408、第9位、914円→1,226円、+34.1%)も買われました。

外食ビジネスに活気が戻りつつあります。鳥貴族HD(3193、第16位、1,898円→2,358円、+24.2%)は月次ベースの既存店売上高は「4月208.7%、5月1,648.4%、6月643.8%」と前年の実績を大幅に上回って推移し、回復ぶりが好感されています。

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ただ6月下旬になると、コロナウイルスのオミクロン変異種が再び拡大期に入ったと見られる報告が相次ぎました。経済再開期待銘柄は再び一斉に売られるという目まぐるしい展開となっています。

(2)小型成長株

米国で景気後退の恐れが出てきたために、年初から下落基調にあった小型成長株が一斉に底入れから反発に向かっています。

オフィス専門の不動産事業者であるロードスターキャピタル(3482、第3位、1,379円→2,143円、+55.4%)や、美顔器具のヤーマン(6630、第4位、1,207円→1,728円、+43.2%)、越境ECのBEENOS(3328、第10位、1,780円→2,367円、+33.0%)、オンライン会議システムのブイキューブ(3681、第11位、869円→1,137円、+30.8%)などが一斉に底入れ反転し始めています。

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6月8日に東証グロース市場に新規上場したANYCOLOR(5032)が話題となりました。人気のVチューバー「にじさんじ」を運営しており、上場初年度から売上高141億円(+85%)、営業利益41.9億円(+188%)を稼ぎ出しています。

公開初日は買い気配のまま値がつかず、公開2日目に初値4,810円で生まれました。その5日後に高値9,200円まで買い進まれています。

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「COOLな銘柄」

続きまして6月相場で値下がりの目立った銘柄、「COOLな銘柄」をご紹介します。ここでは半導体関連株の下げが世界的に際立ちました。

代表格は東京エレクトロン(8035、第6位、58,980円→44,300円、▲24.9%)とSCREENホールディングス(7735、第10位、11,870円→9,170円、▲22.7%)です。日本が誇る半導体製造装置のエッチング装置、洗浄装置でそれぞれ世界トップの両社がそろって大幅安となりました。

高度情報社会を支えるデータセンター、自動車のEV化、自動運転化、通信規格の「5G」、スーパーコンピューター、量子コンピューター、いずれも半導体が不可欠です。脱炭素やデジタルトランスフォーメーションにも半導体が必要です。構造的な需要の拡大期を迎えて、半導体関連株はコロナ後の2年間、あらゆる株価材料の中でも最も力強い上昇波動を描いてきました。

その半導体関連株が世界中で一斉に売り対象となりました。背景にはやはり米国をはじめ世界各国の景気減速があると見られます。

半導体の基板であるシリコンウエハーで世界有数の信越化学工業(4063、第30位、18,335円→15,300円、▲16.6%)、SUMCO(3436、第34位、2,097円→1,759円、▲16.1%)も下げが目立ちました。

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半導体テスターのアドバンテスト(6857、第25位、8,900円→7,260円、▲18.4%)、マスクブランクスのHOYA(7741、第35位、13,810円→11,585円、▲16.1%)、パッケージの新光電気工業(6967、第5位、4,745円→3,500円、▲26.2%)、同じくイビデン(4062、第22位、4,735円→3,825円、▲19.2%)、リードフレームの三井ハイテック(6966、第8位、11,090円→8,420円、▲24.1%)、搬送装置のローツェ(6323、第12位、10,840円→8,470円、▲21.9%)も大きく下落しています。

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ルネサスエレクトロニクス(6723、第23位、1,524円→1,233円、▲19.1%)やアルバック(6728、第44位、5,480円→4,620円、▲15.7%)も下げが目立ちます。半導体関連株が全面安の展開となり、株式市場全体の地合いの弱さを端的に示しています。

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当コラムは投資の参考となる情報提供を目的としており、特定の銘柄等の勧誘、売買の推奨、相場動向等の保証等をおこなうものではありません。

また将来の株価または価値を保証するものではありません。
投資の最終決定はご自身のご判断と責任で行ってください。
詳しくは「ご注意事項」をご確認ください。

鈴木一之

鈴木一之

株式アナリスト

1961年生。
1983年千葉大学卒、大和証券に入社。
1987年に株式トレーディング室に配属。
2000年よりインフォストックスドットコム、日本株チーフアナリスト
2007年より独立、現在に至る。

相場を景気循環論でとらえるシクリカル投資法を展開。

主な著書
「賢者に学ぶ 有望株の選び方」(2019年7月、日本経済新聞出版)
きっちりコツコツ株で稼ぐ 中期投資のすすめ」(2013年7月、日本経済新聞出版社)

主な出演番組
「東京マーケットワイド」(東京MXテレビ、水曜日、木曜日)
「マーケット・アナライズplus+」(BS12トゥエルビ、土曜13:00~13:45)
「マーケットプレス」(ラジオNIKKEI、月曜日)

公式HP
http://www.suzukikazuyuki.com/
Twitterアカウント
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