株式アナリストの鈴木一之です。
2022年10月の「HOTな銘柄、COOLな銘柄」をお届けします。

日経平均は10月相場で月間騰落率が+6.36%となりました。
9月の▲7.67%の大きな下げをかなり取り返す反転を演じました。

TOPIXは+5.12%と同じく反転し(9月は▲6.52%)、東証マザーズ指数も+7.19%と大きく上昇しました(9月は▲6.33%)。

2022年10月 全体相場 日経平均 TOPIX 東証マザーズ

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米国市場ではNYダウ工業株が+13.95%もの大幅な上昇を実現しました。
NYダウは9月に▲8.84%と、2010年以降で3番目に大きな下落率を記録し、その激しい下げに対する反動高が見られました。
NASDAQも+3.90%と小幅ながら反発しています。

10月の株式市場は久しぶりに堅調な結果となりました。
理由としてはインフレ抑制に対する金融当局の厳しい態度が、わずかながら緩和したように市場で受け止められたことが挙げられます。

インフレを止めるには金融を引き締めなくてはならず、しかしそうなると景気後退のリスクが高まります。
金融政策上では、引き締めと緩和を同時に追求することを求められ、株式市場の参加者は動きが取れないという状況が9月相場の特徴でした。
それが一転して少しずつですが状況は好転し始めている模様です。

10月も株式市場は神経質なスタートを余儀なくされました。
震源地はイギリスの財政政策です。

イギリスでは発足したばかりのトラス政権が9月23日に、党首選での公約どおりに法人税の引き上げ阻止を含む大規模な減税策を発表しました。

インフレに弱い社会的な弱者救済策として導入を図ったのですが、この財政拡張政策が財源の裏付けがないものとして、国債発行の増加を通じてインフレを助長するとの不安からイギリスの債券、株式、通貨・ポンドが一斉に急落するという「トラス・ショック」を引き起こしました。

各国の中央銀行は、慣例を破って一斉にイギリスの財政拡張政策を非難するという異例の事態に至りました。
イングランド銀行は自国発の「トリプル安」が世界の金融市場に伝播することを防ぐために、それまでの金融引き締め政策を一変させて、9月22日にはイギリス国債の買い支えに踏み切りました。

さらに9月28日にイングランド銀行は、超長期国債を無制限に購入すると発表。
10月14日まで毎営業日、残存期間が20年を超える銘柄を対象として、市場の安定に必要とされる金額を無制限で買い入れます。
初日は1,600億円相当額の買い入れを実行した模様です。

結果として、この緊急的な国債買い入れ策が世界の金融市場を救いました。
イギリスの長期金利の急騰に連動して急落した米国の株式市場は落ち着きを取り戻し、あとから振り返ると、この時点を分岐点として、世界の株式市場をはじめ金融市場は年初から続いていた下落基調から脱することができたように思います。

この時のイングランド銀行の買い入れ措置がなければ、超長期債の利回りは7~8%まで上昇した可能性があるとフィナンシャル・タイムズは伝えています。

トラス政権は10月末に、非難の集中砲火を浴びた450億ポンド(7.5兆円)の大規模な減税策のほとんどを撤回しました。
日を置かずしてトラス首相自身も、44日間の短い在任期間で首相を辞任し、後任には党首選を争ったスナク元財務相が後継首相に就きました。

「トラス・ショック」による急落とその後の急反発が、世界の金融市場における1度目の底入れ反転のシグナルです。
2度目の底入れシグナルは米国の物価統計によってもたらされました。
世界中の金融市場に調整を余儀なくさせている震源地は、何と言っても米国のインフレです。
その本丸に大きな転機が訪れています。

米国時間・10月13日(木)に注目の米国・9月消費者物価指数(CPI)が発表されました。
前年同月比+8.2%となり市場の予想(+8.1%)をわずかながら上回る結果となりました。

エネルギーと食品を除いた物価上昇率は+6.6%で、40年ぶりの高水準に達しました。
人手不足によって定着した賃金の上昇が、賃貸住宅の家賃などサービス価格を押し上げており、それが現在のインフレを根の深いものとしています。

予想を上回るCPIの結果を受けて、FRBは引き締め策を緩和するだろうとの市場の見方は大きく後退しました。
発表直後から米国の長期金利は再び急上昇し、米10年国債金利は週末に4%の大台を超えるまでに至りました。

為替市場でもドルは全面高となり、ドル円相場は1998年8月の安値、1ドル=147円64銭を割り込み、32年ぶりの安値水準まで円安・ドル高が進行しました。
その後、10月21日には151円94銭まで進んでいます。
ところが10月13日のNY株式市場の株価は、一段と激しい値動きを見せながらも、最終的には上昇して終わりました。
NYダウ工業株30種平均は、9月CPIの発表直後に▲500ドル以上も急落した後に、そこから反発に転じて最終的には+827ドルの大幅高を記録しています。

翌10月14日(金)は、ミシガン大学による10月の消費者態度指数が上昇したこと(59.8+1.2)を受けて再び株価が下落しました(NYダウで▲403ドル)。
それでもあとから振り返ってわかることですが、木曜日の安値が底入れ反転の2回目のシグナルとなりました。

市場全体は依然として警戒心の強い動きに支配されているものの、徐々に変化の芽が醸成されています。

10月で最も大きな変化はその翌週に表面化しました。
10月21日(金)のウォール・ストリート・ジャーナル紙にFRBの金融政策に関する観測記事が掲載され、そこで「次回の11月FOMCにおいて、12月以降の政策金利の引き上げ幅の縮小を検討する」と報じられたのです。

通常と異なるのは、11月FOMCを目前にしてFRB高官がコメントできなくなる「ブラックアウト」の期間に入る直前という点です。
その微妙な時期にFRBは、内部からのリークのような形で新聞記事を掲載する方法をしばしば採用します。

この記事に対して、米国の金融市場はすかさず大きく反応を示しました。
株式市場は週末にもかかわらず大きく上昇し、債券市場でも長期金利の低下が顕著に進みました。

その後の1週間、NYダウ工業株は上昇を続け、今年の最長連騰記録に並ぶ6日続伸を記録しました。
テクノロジー株を中心にグロース株に投資資金が戻りつつあります。

ここからは10月相場で上昇の目立った銘柄、「HOTな銘柄」をご紹介します。

10月相場で株価の居所を変化させた銘柄は、大きく分けて次のふたつのグループに分かれます。

(1)リターンリバーサル
(2)好業績が確認された銘柄
以下にそれぞれについて概観してまいります。

リターンリバーサルとは、それまで大きく下落していた銘柄が、前提条件が変化したことによって物色の流れが変わり、それまで下げた分を取り戻すかのように大きく上昇することを指します。
経験的にも売られたものほどよく上昇しますが、それが「リターンリバーサル」です。

10月相場では、それまでのインフレ抑制のための急ピッチな政策金利の引き上げがペースダウンするという見方が台頭しました。
金利上昇から上昇一服へと経済の前提条件が変わりつつあります。
それに伴って、それまで下げの厳しかった銘柄が反発し上昇に転じています。

代表的な銘柄が、ダブルスコープ(6619、第1位、1,322円→1,922円、+45.39%)とレーザーテック(6920、第2位、14,695円→21,290円、+44.88%)です。

ダブルスコープはリチウムイオン電池の正極と負極の間にはさむ絶縁材「セパレーター」を韓国で生産する専業メーカーです。
9月の東証プライム市場の値下がり率・第1位となった銘柄です。

9月相場では2,350円から1,322円へ1か月で▲43.7%も下落しました。
前月の当欄において、最も下落が目立った「COOLな銘柄」として真っ先に取り上げた銘柄です。

大幅安の9月相場に先立って、ダブルスコープは3月の安値(687円)から9月中旬の高値(3,175円)まで4倍以上に上昇していました。
その上昇が9月中旬から一転して激しい下落に見舞われましたが、それが再び反転して急上昇したのが10月の値動きです。

9月に株価が急落した時、理由とされたのが、子会社が韓国の新興市場に上場する際に公募価格が低すぎるというものでした。
些細な理由で株価が急落するほど、一時的にも買い人気が沸騰していたことになりますが、そこから時間が経過し、投資家心理も徐々に落ち着いて、市場の金利上昇への不安も収まりつつあることから、株価は大きく反転に向かったと見られます。

同じような状況が半導体関連株にも広く見られます。
回線幅が3ナノメートルという最先端の半導体を製造する工程で欠かせないのが、レーザーテック(6920)が有するマスクブランクスの検査技術です。
世界シェアが100%に達する独占企業で最先端の半導体製造工程には欠かせません。
近年驚くべき利益成長を遂げています。

そのレーザーテックも半導体市場が調整局面に入ったと見られることから、株価は9月相場では19,405円から14,695円まで▲24.3%もの激しい下落を余儀なくされました。
それが10月相場では再び強い上昇基調を取り戻し、21,290円まで+5割近い上昇を演じています。

レーザーテックのほかにも、10月相場では半導体関連株の上昇が目立っています。

イビデン(4062、第18位、3,960円→5,030円、+27.02%)は、米国のインテル向けに半導体のプラスチックパッケージを製造しています。
スマホやタブレット用にプリント配線基板も手がけている高成長企業のひとつです。

株価は2018年末の1,300円台から昨年末には7,380円まで大きく変貌を遂げましたが、年明けからの金利上昇で調整を余儀なくされました。
9月末まで軟調な値動きは避けられなかったものの、10月は金利上昇の重荷から外れて、吹っ切れたかのように5,000円台を回復するまで急上昇しています。

2022年10月 ダブルスコープ、レーザーテック、高島屋

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このほかにも、米国のNASDAQと連動しやすいソフトバンクG(9984、第10位、4,900円→6,400円、+30.61%)、小型成長株の代表格であるマネーフォワード(3994、第5位、3,080円→4,240円、+37.66%)、メルカリ(4385、第16位、1,934円→2,475円、+27.97%)、テラスカイ(3915、第11位、1,884円→2,453円、+30.20%)、ウイングアーク1st(4432、第12位、1,839円→2,393円、+30.13%)など、代表的なグロース株が10月の値上がりランキングの上位に見られます。

2022年10月 ソフトバンクG、マネーフォワード、メルカリ、テラスカイ

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10月は決算発表のシーズンでもあります。
中旬には2月/8月期決算企業の第2四半期決算の発表がピークを迎えます。

下旬は、今度は3月/9月期決算企業の第2四半期の決算発表がスタートします。
決算内容の良好な企業の株価が大きく動き出す時期に差しかかっています。

ここでも業績好調の企業群の中心は半導体関連企業です。

東京エレクトロンデバイス(2760、第8位、5,300円→7,030円、+32.64%)が10月28日に発表した第2四半期の決算は、売上高が1,117億円(前年比+35.0%)と大きく伸び、営業利益も65.7億円(+138.4%)と前年比2倍以上に急拡大しました。

半導体の需給ひっ迫が長期化しており、自動車、電機、通信など産業界向けに半導体の需要超過が大きな恩恵をもたらしています。
クライアント側ではデジタル投資が加速しており、そこに円安メリットも加わって通期の業績見通しを大幅に引き上げました。

東京エレクトロンデバイスの新たな売上高は2,000→2,300億円に、営業利益は85→110億円へと大きく増額されました。
それでも上半期の実績値から見れば、まだ余力があると見られます。

実際にこれほどの増額修正を発表する以前から、株価は業績好調を手がかりに上昇基調をたどっています。
それが今回の決算発表によってさらに増幅された形となりました。

半導体の製造工程で使用される超純水の大手、オルガノ(6368、第20位、2,051円→2,575円、+25.55%)は、決算発表に先立って行われた10月24日の業績上方修正のアナウンスによって株価は大きく動意づきました。

それによれば、オルガノの2023年3月期の通期業績の見通しは、売上高は1,250→1,400億円(前年比+24.9%)に、営業利益は117→145億円(+33.6%)にそれぞれ大きく引き上げられました。
受注が好調である点と円安メリットが大きいことがその理由です。

業績の上方修正に合わせて、中間および期末配当の増額を発表したこともあって、株価は発表直後から10月末に向けて安定した上昇基調をたどっています。

決算発表をきっかけとして業績好調を背景に上昇した銘柄にはこのほかにも、円谷フィールズHD(2767、第13位、1,599円→2,076円、+29.83%)、シンプレクスHD(4373、第14位、1,858円→2,385円、+28.36%)、エレマテック(2715、第26位、1,253円→1,551円、+23.78%)などがあります。

2022年10月 東京エレクトロンデバイス、オルガノ、円谷フィールズHD、シンプレクスHD

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ここからは10月相場の「COOLな銘柄」です。

10月相場で下落の目立った銘柄は、9月相場で大きく上昇した銘柄です。
それらが一斉に値下がりしました。
「HOTな銘柄」のちょうど裏返しの関係になりますが、上昇した銘柄ほど下落も大きくなります。
まさにリターンリバーサルの構図です。

中でも下落の目立ったセクターが小売・消費関連株です。
代表的なものがマツキヨココカラ&カンパニー(3088、第16位、6,230円→5,420円、▲13.00%)です。

ドラッグストア業界トップのマツキヨココカラは、コロナ禍による行動規制が解除されたこともあって、春先から8月~9月にかけて株価は堅調な上昇を続けました。

8月半ばに発表された第1四半期決算は、合併効果が重なって前年比6割増の2,272億円に達しました。
株価は9月に上場来高値を更新しています。

しかしそれが10月相場では反転しました。
明確な下落する理由はないのですが、「売られていた銘柄が買われ、買われていた銘柄が売られる」という、まさにリターンリバーサルの展開で大きく後退を余儀なくされました。

同じような銘柄として、コンビニへの中食供給が主のわらべや日洋(2918、第2位、2,216円→1,760円、▲20.58%)、ショッピングモールでのアミューズメント施設を展開するイオンファンタジー(4343、第8位、3,465円→2,949円、▲14.89%)、中古車買取のIDOM(7599、第12位、869円→745円、▲14.27%)、オンライン旅行会社のエアトリ(6191、第15位、2,849円→2,478円、▲13.02%)が挙げられます。

2022年10月 マツキヨココカラ&カンパニー、わらべや日洋、イオンファンタジー、IDOM

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食品スーパー大手のライフコーポレーション(8194、第4位、2,686円→2,218円、▲17.42%)は、10月14日に発表した2022年2月期の第2四半期の決算で、営業利益が89.1億円(前年比▲41.6%)と大幅に落ち込むことが判明し、株価が下落しました。
前年までのコロナ禍による巣ごもり消費の特需が剥落した影響が如実に現れています。

10月相場で下落率・ワーストワンは三井松島HD(1518、第1位、3,035円→2,399円、▲20.96%)です。

同社が豪州で運営するグレンデル炭鉱のすぐ近くの炭鉱開発に関して、オーストラリア政府は環境保護の観点から開発申請を認めない決定を下しました。
今回の件に直接の関係はないとは言え、株価は連想から急落するという事態に直面しています。
その後も戻り歩調の鈍い状況が続いています。

2022年10月 エアトリ、ライフコーポレーション、三井松島HD

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2022年10月 東証プライム市場 値上がり率・値下がり率上位表

当コラムは投資の参考となる情報提供を目的としており、特定の銘柄等の勧誘、売買の推奨、相場動向等の保証等をおこなうものではありません。

また将来の株価または価値を保証するものではありません。
投資の最終決定はご自身のご判断と責任で行ってください。
詳しくは「ご注意事項」をご確認ください。

鈴木一之

鈴木一之

株式アナリスト

1961年生。
1983年千葉大学卒、大和証券に入社。
1987年に株式トレーディング室に配属。
2000年よりインフォストックスドットコム、日本株チーフアナリスト
2007年より独立、現在に至る。

相場を景気循環論でとらえるシクリカル投資法を展開。

主な著書
「賢者に学ぶ 有望株の選び方」(2019年7月、日本経済新聞出版)
きっちりコツコツ株で稼ぐ 中期投資のすすめ」(2013年7月、日本経済新聞出版社)

主な出演番組
「東京マーケットワイド」(東京MXテレビ、水曜日、木曜日)
「マーケット・アナライズplus+」(BS12トゥエルビ、土曜13:00~13:45)
「マーケットプレス」(ラジオNIKKEI、月曜日)

公式HP
http://www.suzukikazuyuki.com/
Twitterアカウント
@suzukazu_tokyo

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